「スパイ」「美女」「教員」

「教育とは、国の根幹をなす基礎的事業である。」
何かの本でそんな文章を読んだことがある。
俺はもっともだと思った、だから、だからこそスパイである俺はここで教鞭をとっている。

敵国にスパイを送り込み、小学校の段階から少しずつ「こちら側」の思想をすり込んでゆく……。
考えてみると気の遠くなるような作戦だ。
しかし教職というものは世間的に無条件である程度の信頼を得られ、したがって工作活動には有利に働く。
合理的な話だ。けれど最近はそのような風潮も弱まり始めてはいるが。

それに教員というのは案外と儲け物な職業だと思い知らされた。
俺と同じ時期に新任としてやって来た女教師がいる。
彼女はたいそうな美女で、三年前、忘年会が終わった後、俺は手を付けてしまった。
いわゆる送り狼というやつだ。
そしてやがて俺たちは結婚した。美人で働き者の妻、そして子供にも恵まれた平和な家庭。
妻と子供を守ろうと誓った。もう祖国の命令などどうでも良い。

それから二十年後の現在。敵国の工作員の妻に洗脳された私は、逆スパイとして働いている。

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