落ち葉 第三章

 ホームレスが問題になっていないわけではない。地元の住民から「子供が安心して遊べないので彼らを退去させて欲しい」と苦情が来ることもしばしばあるそうだ。もちろん極めて少数を除いた大部分には、何かに害を加えようという意志などない。彼らには家がないだけなのだ。しかし、ヤクザ者が彼らを利用したり、また彼らの中に紛れたりして犯罪行為を行うこともある。治安を悪くしているのは事実だった。

 そういう背景もあってか、僕がその人に初めて会ったとき、真っ先に「役人か?」と低い声で尋ねられた。最初は彼だけだったはずだが、いつの間にか数人のホームレスたちも遠巻きに集まっていた。立ち退かせに来たと思ったのだろう。僕が「いえ、ただのアルバイトです。役所の下請けの清掃会社の」と答えると、彼は短く「そうか」と言ってすぐに背を向けた。その時になってようやく、僕は、彼がぼろぼろの箒を手にしていることに気がついた。室内用の茶色の短い毛のものだったが、その毛も半分ほどは抜け落ちている。彼が掃除をしていることは一目瞭然だった。「この公園は僕がお金をもらって掃除することになってますから、あなたは掃除しなくても良いんですよ」と声をかけるべきだったろう。僕がもう少し良心的で、そしてそれだけの勇気があったのなら。二人の会話が終わったのを察して、ホームレスたちは横目でちらちらとこちらを窺いながら、どこかへと帰っていってしまった。僕にはもちろん、彼にも声をかけることなく。一人きりで箒を使う彼の背中は、他の何者をも拒絶しているように見えた。

 彼だって僕が持っている竹箒には当然気づいただろうし、そもそも清掃会社のアルバイトだと自己紹介までした。掃除しに来ました、と言っているようなものだ。それでも彼が掃除を続けていることを考えると、その意志はきっと強いに違いない。正直なところ僕はビビってしまっていた。彼にはえもいわれぬ迫力があったのだ。

 その日は僕が初めて掃除に出てきた日だったし、その初日からこんなことがあるとは思わなかった。その場でまごついて、公園の入口まで戻って慣れない手つきで地面を掃くことしかできなかった。

 それからはその人と一度も話すことは無かった。

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