落ち葉 第六章

「でもさ、この国はとんでもなく幸福だよ」

 驚くほど流暢な日本語で、ブラジルからの留学生はそう言った。昼をだいぶ過ぎた時間帯なので、学生食堂には人も少ない。

「こうして食事をしていて、スリに狙われることはほとんどない。それに、ホームレスだって……」

 ホームレスの話になり僕は少し驚いた。社会学についての彼の雄弁を僕はそれまで気持ち半分で聞き流していたが、不意に心の中へと踏み込まれた気がした。気持ち半分で聞きながら、僕は、公園清掃のことを考えていたのだ。

「ホームレスだって、みんな老人ばかりだ。この国では子供のホームレスは見たことがないね。しかも、犯罪に手を染めなくても何とか生きていける。」

 にわかに僕の興味が向いたことに気づき、彼の目が少し光った。彼は椅子へと座り直した。

「日本には、自治体が、ホームレスに住む場所を提供するところもあると、聞いたことがある。なのに彼らは自尊心だか何だか知らないけど、それに頼ろうとしないんだ。全く、それが恵まれてる証拠だね」

 何だか僕が非難されているような気がしてきた。ふと振り向くと、食べ残しを皿に残したまま食事を片付けにいく学生の姿があった。

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