落ち葉 第九章

 この数日で仕事にもかなり慣れてきて、ホームレスの住処の近くまでかなり近づいて掃除できるようになっていた。初日に思い知った彼らの警戒で僕はそこまで近づけなかったのだ。あの住処の近くにも僕の竹箒の跡がつくようになった。心の距離が近づいたのを象徴しているように思われて、純粋に嬉しい。

 しかし今日はなかなか近づくことができなかった。意識する義務も必要もないことは分かっている。でも僕は、彼らの顔を見る度にひるんだ。僕は石をぶつけられた犬みたいな、そんな顔をしていることだろう。それでも何とか、気弱な犬なりに頑張った。

 そして気がついて振り向くと、後ろに「あの人」が立っていた。いつも通り、黄色いゴミ袋を渡す。彼は無言で受け取り背を向けて、掃除を再開しに行った。表情からは心の内を読むことができなかった。ただ、こういうことをする程度には、彼にも近づけていた。箒を勧めたときには断られたけれども。

 中途半端な言葉で語るより、無言でも同じ作業をする方が親近感も湧くものだ。例えば毎日同じ時間に同じ道を通るとき、ある人とすれ違うとする。そういうことが何度も繰り返されるうち、その「ある人」を認識できるようになる。そしてその認識が、いつの間にか興味へと変わるのだ。「ある人」は何をしている人なんだろうと想像してみたり、姿が見えない日には少し心配になったりとかする。「ある人」も同じようなことを考えているのかと思うと、不思議な気持ちになる。

 あの人はなぜ掃除をするのだろう。掃除をしているとき以外は何をしているのだろう。

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