落ち葉 第九章

 翌日、僕は雇われている清掃会社へと向かった。定期的に簡単な書類に記入しなければならないのだ。

 猫の額ほどの敷地に立つ、プレハブに毛の生えた程度の社屋。しかし、やはり掲げている看板が看板で、内部は細かいところまで清潔感があるように思われた。そういった部分が取引先に好印象を与えることにもなるのだろう。

「こんにちは」「はいおかげさまで」などと適当に挨拶しつつ、事務所の片隅にある区切られたスペースへと連れてこられた。簡易応接間、とでもいったところか。

「こちらが記入用紙ですね。前もって連絡していたとおり、ええ、これですこれです」応対してくれた人が書類を渡してくれた。事前に必要なことはメモしてきてある。安っぽい革のソファに腰を下ろした。テーブルが低すぎて、少し書きづらい。

 日付を年月日で。担当者名。可燃ゴミの量。プラスチックゴミの量。生ゴミの量。不法投棄等の有無。無に丸。遺失物の有無。有に丸。万歩計一個。処理:規定に沿って会社へ連絡した後、最寄りの交番へ提出。備品の損傷の有無。無に丸。

 そこまで書いたところで、沈黙を打ち消すようにと、応対してくれている人が口を開いた。

「あの辺りには、ええと、ホームレスの方たちがいるでしょう。どんな様子ですか?」

 僕は顔を上げた。すると彼は、そのまま書き続けてもらって結構ですよ、という風に手で制した。

「いえ、特にこれと言っては。僕も会話くらいはします。ああもちろん、掃除をさぼったりしているわけじゃあ、ありませんけど。」冗談めかした軽い口調で言って、自分で笑う。これから彼が何を言うのか、あまり見当がつかなかった。

「会話ですか。刺激するようなことだとか、そういうことはなるべく行わない方向でお願いしますよ。」

「刺激、というと?」

「なるべく穏便に事を済ませたいんです。住民からも苦情が来たりしますが、やっぱりホームレスの方たちだって真面目に生きていらっしゃいますからね。貧乏なのは、必ずしも本人たちが原因だとは限りませんし」

 言ってから、彼は自分でうんうんと頷く。何か思うところがあるのだろう。

「ええ、自分も同感です」書き上げた書類を彼に手渡した。

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