落ち葉 第十二章

 家へ帰っても早い時刻なので手持ちぶさたで、部屋の整理をすることにした。公園のことについては何やら胸騒ぎがあったのだが、新聞紙の束をビニール紐で縛ったり、必ずいつか使うと思って置いておいた小瓶や小箱を処理などしていると、それも頭の隅の方へと追いやることができた。

 大学の午前中の講義はない。部屋で雑誌を読んでいると携帯電話に電話がかかってきた。時計を見ると午前九時を少し回ったところ。

「もしもし、こちら……」

 清掃会社だった。役所の方が手間取って、連絡が遅れたという。もちろん今日の分の給料はないので、公園へ行ったことは良い散歩だと思うことにする。

「公園の方で何か事件があったらしくて、そういうわけで、三日間……今日も入れて三日間、清掃の方は中止ということで……」だそうだ。

 午後には日用品を買いに近所のスーパーへと出かけた。清潔感をほのめかす白を基調とした内装、やや明るすぎるかも知れない照明。平日の昼間ともなればやはり客足は少なく、閑散とした印象を受けた。どことなく温室を連想した。植物が育つのにちょうど良い環境を提示するように、人間が買い物をするのにちょうど良い環境を提示しているのだ。そして静かなところも似ている。農家の温室でも、ちょっと覗いてみると良い。雑草など無駄な植物は一本も生えておらず、キャベツならキャベツ、大根なら大根が整然と並んでいるのだ。予想外に無機質な感じがしてぞっとした経験がある。

 一人暮らしなので荷物は軽い。何となく気になって、帰りがけに公園の前を通ってみることにした。少し遠回りになるが、傷むような物は買っていない。

 入り口には相変わらず警官が立っていたが、その人数も減じてたった一人だ。また、朝にあったような慌ただしさもない。用事は済んだのか、それとも交通に支障が出ると考えたのか。相変わらず黄色と黒のテープは張られているが。

 子供連れの主婦が三人いた。その人たちも何が起こったのかは知らないらしい。「放火があったっていう噂があるけど本当かしら」「夜は暗いからひったくりでもあったんじゃないの」「ここにいたホームレスの人たちの仕業じゃないかしら、お金目当てで」などと勝手なことを並べ立てている。あまりにも無根拠なのでうっすらと憤りを感じた。だがしかし自分がしゃしゃり出るような幕ではないと思い直す。母親たちの周囲で鬼ごっこをしている子供を少し眺めて、そこを立ち去った。

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